ヴィジェ=ルブラン「マリー・アントワネットの肖像を描くヴィジェ=ル・ブラン」
美しい絵だな、と思う。
絵の全体に透明感があって、頭に巻いた白い布や襟は繊細だ。
キャンバスに落ちた影が人物を浮き上がらせている。腰に巻いた赤い布がよいアクセントになり、頬の赤さを引き立てている。
そして、何より可愛らしい。
この絵は画家がフィレンツェを訪れたときに、トスカナ大公の求めにより描かれたものだそうだ。
ヴィジェ=ル・ブランはフランス王妃マリー・アントワネットに可愛がられ、王妃の肖像画を20点以上描いていた。
しかし1789年のフランス革命により王妃が捕らえられたため、その日の夜にパリから脱出し、王妃の兄であるトスカナ大公ピエトロ・レオポルドの元を訪ねていたのである。
大公は画家の自画像のコレクションを所有していたため、彼女の自画像もコレクションに加えようと依頼したのだ。
絵のタイトルにあるように、キャンバスにはマリー・アントワネットが薄く描かれている。
マリー・アントワネットとヴィジェ=ル・ブランは同じ年の生まれということもあり、とても親しかったらしい。画家としての評価ももちろん高かったのだろうが、身分を越えて友人に近い感情もあったのかもしれない。
王妃は1793年にギロチンにかけられることになるが、この時点ではそれを予見できるはずもない。依頼主であるトスカナ大公に求められたということもあるかもしれないが、可愛がってくれた王妃の姿を無邪気に描いたのだろう。現代から見れば何か痛々しくもある。
一方、見方を変えれば、画家はパトロンを失い、生まれ育ったパリからも逃げてきたところだ。今後のビジネスを考えたとき、大公の自画像コレクションに加えてもらうことは宣伝上絶好の機会だったとも言えるだろう。この後ヨーロッパ各地で絵を描き、最終的にはパリに戻って87年の長寿を全うすることになる。技術的に卓越していただけでなく、世渡りにも長けた画家だったと思われる。
なお、この絵の画家は20代前半くらいに見えるが、35歳のときに描かれたものだ。後々まで美術館に飾られることを考えたとき、かわいらしい自分を見せたかったのだろうか。これよりも以前に描かれた「麦わら帽子をかぶった自画像」(1782年頃、ロンドン ナショナルギャラリー)は気品漂う美女の姿であり、こちらもすばらしい。
(作品概要)
マリー=ルイーズ=エリザベート・ヴィジェ=ル・ブラン
Marie-Louise-Élisabeth Vigée-Le Brun(1755-1842)
「マリー・アントワネットの肖像を描くヴィジェ=ル・ブラン」
1790年 油彩 カンヴァス 100×81cm フィレンツェ、ウフィツィ美術館蔵
2010年10月、損保ジャパン東郷青児美術館「ウフィツィ美術館自画像コレクション展」にて







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